遺言書の基礎知識
1.遺言書とは何か?
遺言書とは、法律によって定められている相続の原則を、自らの意思で修正をする手段です。民法という法律では、人が亡くなった場合に、その人の所有していた財産を誰にどのように相続させるかについての決まりがあります。この法律で決められた相続の原則を、自らの意思で変更したいという場合には、法律によって決められた方法によって手続をする必要があります。その手続のことを「遺言」といい、また作成された書面のことを「遺言書」と呼んでいます。
2.遺言書の作成方法は?
遺言書は、法律で決められた厳格な方式に従って作成する必要があります。方式を守らない遺言書は、原則として無効となり、効力を持ちません。
法律では、様々な特殊なシチュエーションに応じて、複数の方式が決められていますが、一般的なものは①自筆証書遺言と②公正証書遺言の2つです。
①自筆証書遺言は、実際の自分の手で自書する方式の遺言書です。他方で、②公正証書遺言は、公証役場において公証人に作成してもらう方式の遺言書です。この2つは、遺言としての効力は全く同じですが、それぞれ作り方が異なると理解していただければよいかと思います。
①自筆証書遺言は、法律上、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています(民法968条1項)。自筆証書遺言を作る場合には、(ア)遺言をする人が全文(遺言書の内容)を自書すること、(イ)日付を自書すること、(ウ)氏名を自書すること、及び(エ)自分の印を捺印すること、といった方式を厳格に守らなければなりません。
簡単そうに見えてもこれが意外と難しく(特に遺言書の内容を自分で考えるのは難しいのです…)、また方式に反した遺言書は無効となってしまうことから、可能であれば弁護士に監修してもらうか、又は②公正証書遺言にすることをお勧めいたします。
3.遺言書がなかったらどうなる?
遺言書がない場合には、以下の各事例とおり、亡くなった人の財産は原則として法律によって決められた相続の原則どおりに相続されます。これを「法定相続分」と呼ぶこともあります。この原則を自分の意思で修正したいと考えた場合には、遺言書を作成する必要があるのです。
事例1 亡くなった人に配偶者と子どもがいる場合
この場合、亡くなった人の財産を、配偶者2分の1、子ども2分の1の割合で相続します。子どもが複数いる場合には、その取分である2分の1を子どもの数で等分することになります。
例えば、配偶者と子どもが3人いる場合、配偶者が2分の1、子どもが各自6分の1(2分の1×3分の1)の割合で相続することになるのです。
なお、子どもは婚外子であっても養子であっても割合に変化はありません。また、この場合に、亡くなった人の兄弟や親がいたとしても、これらの人たちは相続の権利がありません。
事例2 亡くなった人に配偶者と兄弟姉妹がいる場合
この場合、亡くなった人の財産を、配偶者3分の2、兄弟姉妹3分の1の割合で相続します。兄弟姉妹が複数いる場合には、その取分である3分の1を兄弟姉妹の数で等分することになります。
なお、姉妹が嫁いで姓が変わっていたとしても、相続人であることには変わりありません。また、子どもがいる場合には、事例1のとおり相続しますので、この事例は子どもがいないことが条件となります。
事例3 亡くなった人に配偶者と親がいる場合
この場合、亡くなった人の財産を、配偶者4分の3、親4分の1の割合で相続します。親が複数いる場合には、その取分である4分の1を親の数で等分することになります。
なお、子どもや兄弟姉妹がいる場合には、事例1又は2のとおり相続しますので、この事例は子どもや兄弟姉妹がいないことが条件となります。
事例4 亡くなった人に配偶者がおらず子どもがいる場合
この場合、亡くなった人の財産を、子どもがすべて相続します。子どもが複数いる場合には、子どもの数で等分することになります。
例えば、子どもが3人いる場合、子どもは各自3分の1の割合で相続することになります。なお、この場合に、亡くなった人の兄弟姉妹や親がいたとしても、これらの人たちは相続の権利がありません。
4.複数人の相続人がいる場合の財産の帰属
例えば、亡くなった人が、土地建物と現金を持っていたとします。そして、その相続人は、妻と子ども2人だったとします。これは、上記の事例1の場合に該当しますので、亡くなった人の財産は妻が2分の1、子どもは各自4分の1の割合で相続します。
このとき、分けることのできる現金はそのままの割合で分ければよいのですが、分けることのできない土地建物は上記の法定相続分の割合で「共有」することになります。この共有状態を解消するためには、「遺産分割」という手続が別途必要になります。
遺産分割は、相続人全員の合意によって、どの不動産を誰のものにするのかを決める手続です。少し想像していただければすぐに分かるとおり、親族間の相続に関する争いの多くはこの「遺産分割」を原因とするものといってよいでしょう。
このような遺産分割による相続争いを予防するために、「遺言書」はとても効果的です。なぜなら、自分が死んだ後に誰が何を相続するのかを予め決めておくことができ、遺産分割が不要になるからです。財産が相続人全員の共有にならないよう、財産ごとに単独の承継人を指定しておけばよいのです。
遺言書作成のすすめ
1.相続に関する紛争やトラブルを予防できる
遺言書を作成することにより、相続の開始により不動産や株式が共有となる問題を回避することが可能です。そのため、遺産分割で親族間が争うことや、会社の株式が共有状態になることによって生じるトラブルを予め防ぐことができるのです。
2.相続手続を簡略化できる
遺言書を作成することにより、遺産分割の手間が省くことができ、相続手続自体を簡略化することが可能です。また、例えば遺言の執行者に弁護士を指定しておくことで、相続による不動産登記変更などの面倒な手続を専門家に任せることができ、相続人の手間も省くことができます。
3.自分の意思で相続を決めることができる
遺言書を作成することにより、相続人間で極端な傾斜をつけるなど、自分の意思で相続の方法をすべて決めることが可能です。例えば、長男には実家の土地建物を継いでもらう、二男には自分の会社を継いでもらうなど、各相続人の特性に合わせて財産の承継方法を決めることができるのです。
弁護士に依頼するメリット
1.方式違背による無効を防ぐ
遺言書は法律によって厳格な方式が定められており、少しでもこれに違反すると「無効」となってしまいます。せっかく作成した遺言書が実際に効力を持たないのでは意味がありません。弁護士にご依頼いただくことで、方式違背による無効を防ぐことができます。
2.遺留分に配慮した遺言書の作成
相続人には、遺産を承継するという期待を守るため、「遺留分侵害額請求」という権利が認められています。例えば、あなたの財産を特定の相続人1人にすべて承継させる遺言を作成した場合、他の相続人は遺産をすべて承継することになった相続人に対して法定相続分の2分の1に相当する金銭を請求することができます。遺留分に配慮しない遺言書は親族間紛争の原因となるため、弁護士に依頼して遺留分に配慮した遺言書を作成することをお勧めいたします。
3.用途に応じた遺言書の作成
遺言書には作成者の様々な希望を反映することが可能です。相続人以外の第三者に財産の殆どを承継させ、相続人には遺留分相当の最低限度だけを承継させるなど、遺言書にはあなたの希望をそのまま反映させることができます。会社の後継者を守りたい、配偶者の生活を守りたい、孫の将来のためにお金を残したいなど、用途に応じた遺言書の作成が可能になります。
弁護士費用
定型
【遺産額】 | 【費用】 |
一律 | 16万5千円 |
非定型
【遺産額】 | 【費用】 |
300万円以下の場合 | 22万円 |
300万円を超え3000万円以下の場合 | 1.1%+18万7千円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 | 0.33%+41万8千円 |
3億円を超える場合 | 0.11%+107万8千円 |
* すべて税込み価格です。
* 公正証書による遺言を作成する場合には、別途手数料を頂戴しております。