特別受益とは何か?

相続人間の平等を図るために、相続人に対して遺贈や生前贈与がなされている場合に、その遺贈などを「特別受益」としてその価額を相続財産とみなす制度です。特別受益を相続財産に含めることを「持ち戻し」といったりします。民法903条1項において「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定されています。

特別受益の対象となるものは?

特別受益の対象となるのは、「遺贈」又は「婚姻、養子縁組のための贈与」もしくは「生計の資本としての贈与」です。「遺贈」については、目的にかかわりなく、すべてが特別受益の対象となります。「生計の資本としての贈与」は、個人の生計の基礎として役立つような贈与のことです。例えば、自宅を立てるための建築資金や、事業のための営業資金などの贈与が典型的です。なお、小遣いや扶養のための生活費などは対象外になります。小遣いは自由に費消されることが目的の金銭であり、扶養のための生活費は親族間の扶養義務の履行と考えられるからです。

特別受益の評価の基準時は?

20年前の贈与が特別受益の対象となる場合、金銭価値が相続時と異なるという問題が発生します。このような場合、特別受益の評価時点は「相続開始時」であると考えられています(大阪高決昭和58年6月2日判タ506号186頁)。もっとも、現実に遺産分割を行う際には、遺産自体の評価の基準時は「遺産分割時」」とされています。
そのため、特別受益がある場合には、相続開始時を基準として特別受益を評価した上で具体的相続分を算定し、これを前提として遺産分割時の遺産評価に基づき現実の分割を行うことになります。この辺りは少しややこしいので、しっかりと遺産分割をしたいという方は弁護士に相談した方がよいでしょう。

金銭の価値の変動をどのように評価するのか?

貨幣価値の換算については、総務省統計局の消費者物価指数年報等によって算定するのが一般的です。

農地の価値をどのように評価するのか?

農地は、どのように使用されているかによって価値が大きく変わります。例えば、農地が宅地として確定している場合、あるいはそのような蓋然性が高い場合には、その事情を考慮して算定すべきであるとされています(最高裁事務総局家庭局「昭和42年3月開催家事審判官会同概要」家月21巻2号47頁)。具体的には、宅地としての評価額から宅地化に要する費用を控除した額を評価額とするといった方法が考えられる。

株式をどのように評価するのか?

上場株式の評価額は、証券取引所での取引価格によって評価します。他方で、非上場株式の場合には、非上場株式の算定方式としては、①純資産方式、②配当還元方式、③類似業種批准方式、④混合方式、⑤国税庁の「財産評価基本通達」方式などがあります。こられの計算は素人(弁護士を含む)には困難なので、公認会計士等の専門家に鑑定を依頼するのが一般的です。

持ち戻し免除の意思表示とは何か?

特別受益の対象となるような生前贈与があったとしても、被相続人がそれを相続財産に持ち戻すことを希望していない場合があります。これを、「持ち戻し免除の意思表示」といいます。この場合、当該生前贈与は持ち戻しをせず、相続財産の評価に含めません。持ち戻し免除の意思表示は、贈与と同時でなくともよく、また明示でも黙示でも構わないとされています。

寄与分とは何か?

寄与分とは、共同相続人のなかで、被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした者がいた場合には、その相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度です(民法904条の2)。

寄与分が認められる「特別の寄与」とは何か?

特別の寄与とは、身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超えるような貢献のことをいうと考えられています。例えば、子は親に対して相互扶養義務があるところ(民法730条)、相続人である子が親である被相続人と8年間同居して面倒を見たとしても、それだけでは遺産の維持に貢献したとはいえないとした審判例がある(東京高決昭和54年5月14日家月32巻4号53頁)。

寄与分はどのように決めるか?

寄与分は相続人間の話し合いによって決めます。相続人間の話し合いがまとまらない場合には、寄与分を求める相続人の申立てにより、裁判所が、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定めることができます(民法904条の2第2項)。